
フィリピンは、規模も業界も異なる多数の国内外の企業の拠点となっており、その経済活動ゆえに同国の経済は著しく発展してきた。現在享受している経済発展を維持してゆくためには、グローバルな市場動向に適応する必要がある。企業の社会的責任(CSR)は、このような企業の方向性の一端を担っている。
CSRの本質は「企業の社会的責任」という名称そのものに集約される。一般的には公共の福祉の向上と自社のビジネス戦略の合致を目指す企業の一連の活動として理解されているとはいえ、フィリピンにおけるCSRの実践は、様々な形態をとっている。以下に、企業がCSR活動を行う際に採用するもっとも一般的な方針を四点にまとめる。
1.「 寄付金」:企業は寄付金という形で第三セクターへ財政支援を提供する。この場合、資金提供を行い公共の利益や特定のプロジェクトに寄付金が使われさえすれば、企業の関与が行われないケースがほとんどである。支援企業は、プロジェクトの進捗報告を要求することはあるが、通常、非政府組織(NGO)や地域社会などの受益者は、支援者と協議せずに業務を行う権限を付与される。これには、企業フィランソロピーという名目で支払いが行われる場合も含まれる。
2.「責任の共有」:CSR活動に消費者を巻き込む企業の事例もある。責任の共有という概念によって、企業が取り組みたいと考える問題の解決に、顧客を部分的に参加させることが可能になる。この場合、企業は消費者に危機を訴え、彼らに解決への取り組みに参加するように促す。NGOの世界自然保護基金(以下、WWF)と協働するフィリピンの民営航空会社の例を挙げれば、航空機利用に伴う二酸化炭素の排出を相殺するため、旅行者はWWFに対する少額寄付を求められ、集められた募金は気候変動の緩和と適応に関する特定のプロジェクトに直接支給される。
3.「予算割り当てと従業員の参画」:多くの企業は、CSRへの取り組みに従業員が参加するような方法をとっている。生活環境改善という課題に取り組むための予算を割り当てるとともに、経営陣も、従業員のCSR活動への参加を促すことがある。多くの場合、企業においては、従業員の定着を図るためのリテンション施策、つまり企業が優秀な人材を企業内に留めるための戦術的な意味合いも持つ。従業員に現場での活動を体験させることにより、コミュニティ構築活動に親しむ感覚を培い、最終的には企業への忠誠心を育てることにつながるのである。
4.「システムの刷新」:これについては多くの議論がなされているが、企業は自社のビジネスプロセスを再検討していくことを公約している。このタイプの取り組みは、グリーンサプライチェーンとして生産ラインからの二酸化炭素排出量の削減、または地域経済援助のために地域に根差した製品を取り入れるという形をとる。
以上のように、環境CSRへの取り組みは大仕事である。企業にとっての投資の対象は、人員の追加、作業場の拡大、事務所設備の増設など枚挙にいとまがない。このような投資を行わないのであれば、企業ではなく、問題改善のための手段を持った慈善団体やコミュニティである。より端的に言えば、新たにCSRという要求に応じるために踏み出すには、費用がかかるということである。収益にさらなる経済的負担をかけてまで、企業がCSRに取り組むのはなぜだろうか。
フィリピン政府は、CSR活動を通じて国家としての体制を強化するため、国内に拠点を置いている企業に対して、協力を要請したい企業と会合を開いているのだが、今のところ提案の法制度化は実現されておらず、したがって拘束力を持っていない。
このように、国内ではCSRが強制力を持たないため、なぜ企業がCSRに投資するのかという疑問が再度浮上してくる。
CSR活動は減税のための手段として解釈されることもあるが、フィリピンにおけるCSRへの取り組みは、たいていの場合「利他的」な企業活動とマーケティング戦略の組み合わせである。地域社会に利益を還元する義務を遂行している企業は、自社の事業内容に合わせた分野を軸にしてCSR活動を創出するものである。 例えば、出版社が教育の向上や植林等の活動を展開し、食品業界では下層階級における健康と栄養改善を唱道する活動を行うといったことである。また、建設会社が路上生活者のための住宅建設に取り組む例もある。
企業は自社の専門性を応用しやすい分野に重点を置く。このタイプのCSRへの取組み方であれば、企業が消費者の生活向上に寄与している積極的なイメージを創出できるだけでなく、どのような製品であっても広告につなげることができる。
例えば、製薬会社が医療分野での貢献活動を実施する場合、当然のことながら自社製品をその活動に用いると同時に、自社製品の使用者が愛用者になってくれるかもしれないという期待をこめて薬品を配布するであろう。この「一石二鳥」のアプローチは、多くの企業がCSRを受け入れるという効果をもたらしたが、同時にCSRの理念を損なう可能性も否定できない。
それでもなお、企業の意図にかかわらず、CSR活動がフィリピン国民の生活の向上の一端を担っていることは否定できない。CSR活動同士を互いに隔てている要素は、関わり方の深さである。理想的には、企業によって実施される活動は持続可能であるべきだ。
ここで言う持続可能性とは、企業がどのような理由でCSRプログラムを中止しても、受益者が活動を継続して行えるという意味である。実際には、CSRは、「人に魚を一尾与れば、彼は一日の糧を得るが、釣りを教えれば、彼は一生の糧を得ることができる」という引用を実現できることが望ましい。教育は企業のCSR活動に必要不可欠である。
現在、規模の異なる500社以上の日本企業がフィリピンに拠点を構えているが、企業自体に関する情報とどのような社会事業に取り組んでいるのかという情報が不足している。上述したような多くの違いはあるが、CSRは生活環境の改善という目的を持っている。
日本企業は環境分野に大きな影響力を持っている可能性がある。
日本は気候変動に影響されやすく、緩和・適応策とそれに関する教育がCSR活動における主な関心事だからだ。さらに、日本は近年エネルギー危機にも直面しているため、多くの日本の電子・輸送業の最先端企業が、省エネ対策や施設、装備等についてフィリピンに情報提供できることも考えられる。このような取り組みは、フィリピンが再生可能なエネルギー源へ関心を高めることにもつながるだろう。
日本企業によるCSR活動の貢献はフィリピンなどの発展途上国で最も重要である。発展途上国は、まだ外部からの様々な働きかけを吸収して成長できる社会性ゆえに、企業活動や社会の発展を通じて、CSRがその行動基準に好影響を及ぼす可能性が高い。
さらに、税制面での優遇やCSR活動を通じての広報活動の側面と製品の導入に加えて、日本企業はフィリピンの社会的・経済的繁栄を支援すると思われる。
CSRの意義は大きい。すでに述べた通りCSR活動は、常に提供者と受益者への相互利益を念頭に置き、数多くの企業投資がもたらす経済的発展に関わらず、フィリピンの社会福祉の優先度が決して損なわれることのないように実践されることが大切である。
著者について
Marie Sonsehrey J. Bretaña:
アテネオ・デ・マニラ大学卒。専攻は政治学。 現在、フィリピンの世界自然保護基金(WWF-Philippines)でマーケティング・企業連携部門に勤務。