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気候変動への「適応」に貢献していきたい

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保険という仕組みを使って
気候変動への「適応」に貢献していきたい

損保ジャパン

損保ジャパン タイ東北部の干ばつリスクを対象とした天候インデックス保険の開発

気候変動が社会に与える影響を低減する「適応策」の一つとして近年、天候による収益減をカバーする金融・保険商品への期待が高まっている。

気温・降水量などの指標が一定水準を上回ったり、下回ったりした際に補償金や保険金が支払われる商品は、天候デリバティブまたは天候インデックス保険と呼ばれ、1990年代末に米国で誕生して以来、先進国を中心に普及が進んでいる。だがその一方で、インフラ整備が不十分で、気候変動の影響をより大きく受けると考えられる途上国では、その普及は進んでいないのが現実だ。

そうしたなか、タイ東北部の農業従事者を対象に、2010年から天候インデックス保険の販売を開始したのが損保ジャパンだ。同社は、前身である安田火災時代から環境経営の先進企業として産業界をリードし続けてきた。

同社企業商品業務部リスクソリューショングループ副長の廣岡 智氏に、タイを舞台に気候変動を対象とした保険商品を開発した経緯をうかがった。

保険金支払い説明会の様子~会場全体の様子~
保険金支払い説明会の様子

企業商品業務部
リスクソリューショングループ
副長 廣岡 智氏

インタビュー
タイで始まった、保険による気候変動リスク軽減プロジェクト

Q タイにおいて、天候インデックス保険と呼ばれる商品の発売を開始した経緯を教えてください。

廣岡●2007年に日本政策金融公庫国際協力銀行(JBIC)が立ち上げた「適応問題における民活(保険)活用と国際協力銀行のあり方研究会」に参加したことが、その直接的なきっかけです。

気候変動への対応は、大きく「緩和」と「適応」に分かれます。緩和とは、温室効果ガスの排出規制など、気候変動に関する問題の根本的解決に向けた取り組みです。一方、気候変動による影響や被害を低減するための取り組みが適応になります。

研究会の目的は、金融という仕組みを通じ、気候変動への適応を図る点にありました。研究会で示された一つの具体案が、天候デリバティブや天候インデックス保険と呼ばれる金融・保険商品の活用でした。

冷夏とビアガーデン、多雨と遊園地――。天候が収益になんらかの影響を与える企業は、全体の3/4に達するとも見られている。

気温や降水量といった指標にもとづき、それが一定の数値を上回ったり下回ったりした際に補償金・保険金を受け取ることが、天候デリバティブまたは天候インデックス保険と呼ばれる金融・保険商品の基本的な仕組みだ。

1990年代後半に誕生して以来、先進国を中心に普及が進んだ同商品は、気候変動への適応策の一つとして期待が寄せられている。だが、気候変動の影響をより大きく受ける途上国では、普及が進んでいないのが現実だった。

廣岡●当社は2000年代初頭から、天候デリバティブ商品を手掛けてきましたが、事業は国内が中心となっておりました。

特に途上国で事業を展開する上で大きなネックになるのが、気象観測データや観測所網の整備の遅れでした。こうした商品の設計には、過去数十年間にわたる精度が高い気象観測データが必要となりますが、その条件を満たす国は決して多くないのです。

このような状況下で、研究会での調査の中、候補として浮かび上がったのがタイだったのです。

2008年からスタートした実証プロジェクトの舞台となったのは、タイ東北部コーンケン県の農村地帯。農業を主な産業とする東北部は、タイ国内でも経済的に立ち遅れた地域といえるが、その理由の一つには灌漑インフラ整備の遅れがあった。

そのため、タイ東北部では今日でも、雨水だけに頼る天水農法を行う農家が多いが、それは干ばつ等の気候変動リスクをダイレクトに受けることにほかならない。

廣岡●タイ東北部の稲作農家に対し、一定期間の降水量を指標にして、それがある数値を下回れば保険金を支払う――。それがタイで販売している当社の天候インデックス保険の概要です。これは国内で販売している天候デリバティブとほぼ同様の機能を持ちます。デリバティブまたは保険のいずれかの形態で販売するかは、国ごとの法規制の状況により異なりますが、タイにおいては天候インデックス保険として商品開発をしております。

事業の実現には、過去数十年間の気象観測データやきめ細かな観測所網が必要になりますが、タイの気象観測データは、東南アジア内では比較的整備されており、タイ気象庁等の公的機関のサポートがプロジェクトの大きな支えになりました。

タイ保険局との認可折衝の様子
タイ保険局との認可折衝の様子


コーンケン県の面積はおよそ1万平方キロメートル。岐阜県ほどの広さの県内には、34カ所の観測所が存在する。局所的に大雨が降ることが多いタイの場合、きめ細かな観測所網が整備されていることは大きな意義を持つという。

廣岡●タイを選んだ理由はもう一つありました。それはJBICの紹介による、農業協働組合銀行(BAAC)の存在です。

タイ政府が9割超を出資し、農家の方々が大きな信頼を寄せるBAACは、私たちにとって心強い存在でした。

目指したのは、「精緻さ」ではなく「分かりやすさ」だった

タイの気候は、大きく雨季、乾季、暑季の3つに分けられる。

同地の稲作は、雨季が始まる6月から8月の間に播種し、乾季が始まる10~11月に収穫を行うというスケジュールが一般的だ。

保険商品の設計にあたり、タイ気象庁や茨城県つくば市の農業環境技術研究所(NIAES)の協力を得た同社だが、設計する上で大きな意味を持ったのは、現地農家を対象に実施されたヒアリングだったという。

廣岡●当初私たちは、6~8月の累積降水量を指標とした保険商品の開発を考えていました。ところが現地でヒアリングすると、「6月の雨量はさほど重要ではなく、むしろ稲が実り始める9月の雨が大切」という声が多数寄せられたのです。直播栽培が主流であることがその理由でした。直接お話しをうかがうことの大切さを感じました。

Q 現地農家へのヒアリングはどのような形で行ったのでしょう?

廣岡●BAACのアレンジによって、コーンケン県内3カ所の会場で実施しました。1会場あたりの参加者は10名前後で、大規模な農業経営者から中小農家まで幅広い層の方にお集まりいただきました。

ヒアリングは非常にスムーズに行えましたが、その背後には現地農家が厚い信頼を寄せるBAACの存在がありました。

ヒアリングは「こういう商品はおもしろい」というコメントをいただくなど、私自身にとってもモチベーションアップにつながる体験になりました。

BAACスタッフとの現地農家インタビュー
BAACスタッフとの現地農家インタビュー


タイで販売を開始した天候インデックス保険は、保険金支払い水準として、2段階の閾値(Drought閾値、Severe Drought閾値)が設定された。

天候インデックス保険の販売は、BAACによる融資とセットで行われるが、7~9月の累積降水量がSevere Drought閾値以下の場合は、保険の対象とするローン元本の40%、Severe Droughtを上回りDrought閾値以下の場合は、保険の対象とするローン元本の15%が農家に自動的に支払われる。

Q 商品開発を行う上で、国内との違いはありましたか?

廣岡●過去の気象観測データにもとづいて保険設計を行うという基本的な考え方は、国内外を問わず共通です。そういう意味では、これまでに国内で培ってきたノウハウや経験が商品開発のベースになったと考えています。

ビジネスとしてはまだまだ未成立。だがそこには大きな可能性も

タイ東北部の農家は、農作業開始前に銀行から資金を借り入れ、収穫後に農作物を現金化することで返済を行うことが一般的だ。そのため干ばつによって、その返済が滞ることも少なくないという。BAACによる融資と併せて募集が行われる天候インデックス保険の保険料は、保険の対象とするローン額の一定割合に統一されている。具体的には、保険の対象とするローン額1~2万バーツ(約3~6万円)の場合、数千円程度の保険料を支払うというのが加入者の一般的イメージだ。

廣岡●タイ東北部の農家の所得水準などの正確な統計データの確認ができない中、「当初見込んでいた保険料水準は少し高すぎるかな」とも感じましたが、ヒアリング時に詳しくお聞きしたところ、十分に対応できる範囲であることが分かりました。

2010年度の天候インデックス保険の加入件数は1158件で、BAACのローン契約者の1~2%に相当する。ちなみに同年度は、そのうち66件の保険金が支払われている。

さらに2011年度には販売エリアをコーンケン、ナコンラチャシーマ、マハーサーラカーム、カーラシン、ローイエットのタイ東北部5県に拡大。件数も6000件を突破している。


保険金支払い説明会の様子




Q 「タイ東北部の天候インデックス保険」は、ビジネスとして成立する段階に達しているのでしょうか?

廣岡●保険料自体は持続的に保険カバーを提供できることを前提に、合理的に算定されておりますが、開発までに要したコストを本件のみで回収できるような価格設定にはなっておりません。

ただし、現時点の加入者がローン契約者の1~2%に留まっていることを考えると、潜在的ニーズはきわめて大きいと考えられます。今後は、事業規模の拡大と現地法人への技術移転がキーになると考えています。

Q プロジェクトを進める上で国内と違う難しさ、苦労した点を教えてください。

廣岡●農家を対象にした天候インデックス保険の場合、さまざまな気象指標と収穫量の相関関係を把握することが大切です。しかし収穫量のデータ精度に問題があるせいか、なかなかその相関関係が見出せないという難しさがありました。また、収穫量は、降水量だけでなく、気温、日照時間等のさまざまな気象条件によって変動する可能性があります。収穫量の減少の実態に近づけようと降水量以外の気象指標も加えた複雑な商品設計をすると、農家にとって分かりにくい商品となってしまう可能性もあり、分かりやすい商品との間で板ばさみになりました。

また、販売を担当した当社現地法人のスタッフは、申し込み書類の不備への対応、気象観測や収穫量のデータ取得などの苦労に直面したと聞いています。

Q 2012年にタイにおけるプロジェクトは3年目を迎えます。今後のビジョンを教えてください。

廣岡●2011年度までの3年間のパイロット期間の取組みを総括し、今後はタイ国内での販売地域拡大、対象作物の多様化、さらには他国への展開を含め、幅広い視点で検討を進めていきたいと考えています。

特に、2011年秋に発生したような洪水被害などもありましたが、現行商品は干ばつのみを対象としており、農家のニーズを完全には満たせていないように思います。

天候インデックス保険は、その性格上、さまざまな地域や業種のリスクを対象とすることで、リスク分散が可能になります。そのため、当社としても海外への展開を積極的に検討し、地域分散を図っていきたいと考えているところです。

Q プロジェクトにおけるJBICの役割を教えてください。

廣岡●プロジェクトは、民間の力を活かし、事業として持続できる仕組みを構築することを目指して行われました。そのため、JBICから資金サポート等はいただいておりません。

その一方で、BAACを紹介していただいたり、タイ政府関係機関に本件に対する支援要請を行っていただいたりなど、JBICにはコーディネーターとしてのサポートをいただいています。

実感したのは、人間関係の大切さだった

Q 事業を通し、地球環境問題に貢献する――。そうした取り組みに関わる方へのアドバイスを教えてください。

廣岡●それは、まさにChallengingな分野だと感じています。難しいのは確かです。しかし誰かが取り組まなければ、それは始まらない――。それだけにやりがいのある分野といえるのではないでしょうか。

私の場合、学生時代にアジアからの留学生と机を並べる機会が多かったこともあり、いずれはアジアで仕事をしてみたいという思いを持っていました。それだけに、このプロジェクトには大きな思い入れがありました。

また、これは海外事業全般に言えることとも思いますが、プロジェクトに関わる中で私自身が強く感じたのは、人間関係の大切さ、異文化理解・適応でした。

業務をよりスムーズに進めていく上では、現地の関係機関のスタッフと親しくなることが大切です。私はタイ語を話すことができませんが、タイ語で相手の名を呼んだり、あいさつをしたりするなど、自分の言葉として発することでずいぶん相手の受け止め方は違うということを学びました。


SJタイとの打ち合わせの様子


Q なにに取り組めばいいのか分からない――。企業内で環境CSRに取り組む担当者からそのような言葉をうかがうことも少なくありません。このような悩みに直面した方へのアドバイスはありますか?

廣岡●いろいろなケースがあると思いますが、やはり本業との関連性という部分がキーになるのではないでしょうか。

規模を問わず、経済活動を続ける企業にはそれぞれのアイデンティティがあります。環境CSRへの取り組みがそうした部分と連携できれば、きっとそれは社会的な注目を浴びるユニークな取り組みにつながるはずです。

Q ご自身の取り組みを自己採点するとするなら、百点満点中、何点をつけますか?

廣岡●それは難しい質問ですね。個人的には、やり残したことがまだまだたくさんあると感じています。きっと今はまだ、答案を書いている最中なのだと思います。
★取り組みのヒント
  • 自社のアイデンティティを基点に、自分たちに出来ることを考えることが大切。それはきっと社会的な注目にもつながる。
  • 海外での事業は、国内以上にコミュニケーションが大切に。あいさつ程度でも現地語を使うことで、相手との信頼関係が構築できる。
  • 国内で行う研究・調査だけでは実情の把握は難しい。現地の人々に直接話を聞くことが、なにより大切になる。